氷の使い道

Mission3当日、せっかく買ったのに何も入ってない空のクーラーボックスを車に積むティジャニ。
途中で水でも買うのかと思ったら違った。






氷屋さんに寄り、クーラーボックスに氷をダイレクトに投入。

溶かして飲み水に使う魂胆らしい。


砂漠の国にこんなに氷があるなんて。

モーリタニアに来て毎日氷を捜し求めていたので、かなり嬉しい出会いだった。


ティジャニ達は氷を飲み水に使うのだが、自分は別の使い道をしたかった。
氷を使って自分が何をするか想像してみてください。





いいすか?
間髪いれずに説明するっスよ。


1. バッタを野外から採集してきーの、

(緑のタマネギネットを採集ネット代わりに日本から大量に持ってきた。一枚22円で格安。これに針金で作った輪を入れて簡易の飼育ケージに。今回は1アミに50匹程度入れてみた)


(話の流れ中、悪いッス。ここが自分専用のラボっす。)



2. 買ってきた氷に、ビニール袋にバッタを入れて突っ込みーの、

(15分ほどバッタを冷やして冷凍麻酔する)



3. スキャナーでバッタをスキャンしーの、

(2,3分ほどで動き始めるので音速で作業すること)



4. うっとりと眺める。


これは、ボスから教えてもらった門外不出のバッタの体色を調査する便利な方法だ。
カメラで一匹ずつ写真を撮っていたらキリないし、一度に大量に、いつでも同じ光の強さで画像を取れるので解析しやすい。
そして、後ほど解析するのだ。


スキャンしたバッタを見てもらえば気づかれるだろうが、このサバクトビバッタの幼虫は生息環境の背景色に自分の体色を似せれる能力をもっているため、非常にカラーバリエーション豊富なのだ。
自分はこのバッタがどうやって体色を制御しているのか、そのメカニズムに興味をもって研究を行ってきた。

Maeno, K. & Tanaka, S. (2010) Genetic and hormonal control of melanization in reddish-brown and albino mutants in the desert locust, Schistocerca gregaria。 Physiological Entomology 35, 2-8.


Maeno, K. & Tanaka, S. (2009) Artificial miniaturization causes eggs laid by crowd-reared (gregarious) desert locusts to give rise to green (solitarious) offspring in the desert locust, Schistocerca gregaria Journal of Insect Physiology 55, 849-854.


Maeno, K. & Tanaka, S. (2008) A reddish-brown mutant in the desert locust, Schistocerca gregaria: Phase-dependent expression and genetic control. Applied Entomology and Zoology 43, 497-502.


Maeno, K. & Tanaka, S. (2007) Effects of hatchling body colour and rearing density on body colouration in last-stadium nymphs of the desert locust, Schistocerca gregaria. Physiological Entomology 32, 87-94.


実際に野外でどんな体色をしたバッタがどこにどのくらいいるのか調査中なのだ。
実験室では見たことも無い色のバッタが続出しており、ニューモデルを見つけるためにその美しさに心打たれる。


そして、大きさにも違いがあるのだが、本種は5又は6回脱皮して成虫になるのだが、
自分は秒殺で何回脱皮した幼虫か分かってしまう特殊能力がある。




タネ明かしすっと、このバッタは一回脱皮すると複眼のストライプが一本増えるのだ。

(この幼虫は5本あるから5齢幼虫)


ストライプを数えると何回脱皮したのかが分かり、そのバッタの生い立ちを推測することができるのだ。
大人の階段を一段上る度に、一本ずつ増えていくなんてステキでしょ。

どのバッタでもこの目のストライプがあるわけではないので、
サバクトビバッタは脱皮の研究するのにもってこいなんです。
自分もこの性質を利用し、脱皮に関する研究も続けてきた。

Maeno, K. & Tanaka, S. (2011) Phase-specific responses to different food qualities in the desert locust, Schistocerca gregaria; developmental, morphological and reproductive characteristics. Journal of Insect Physiology 57, 514-520.


Maeno, K. & Tanaka, S. (2010) Patterns of nymphal growth in the desert locust, Schistocerca gregaria with special reference to phase-specific growth and extra molting. Applied Entomology and Zoology 45, 513-519.


Maeno, K. & Tanaka, S. (2008) Phase-specific developmental and reproductive strategies in locusts. Bulletin of Entomological Research 98, 527-534.


野外での脱皮事情も調査中。


バッタの身体には情報がぎっしりつまっているのだが、
まだそれを解読する手段がちゃんと確立していない。
情報を科学的知見に基づいて読み取る手段の開発がこの2年間の派遣期間の一つの目的でもある。


自分は、研究対象はサバクトビバッタ一本なのだが、本種がどうやって砂漠で生活して生き延びているのか、その全ての現象に関心がある。

野外に潜む真実を一つでも多く解き明かすために、モーリタニアにやってきた。


野外で見る新しい彼らの素顔に毎回胸キュンしてしまう。






自社製品でバッタが日夜スキャンされているとはEPSONも驚けばいいと思うよ。
バッタ研究に貢献しているEPSONにこの場を借りて御礼申し上げる。


クーラーボックス買ってあげてマヂ良かった。
バッタを冷やすのに色々試したのだが、やはり氷が一番使い勝手が良かった。
クーラーボックスいっぱいの氷が300円くらい。
全然買うよ。
氷屋の存在に感謝したい。


「ナイス アイス」