文通

自分はみんなが常識的に知ってることを知らなかったり、
人の研究発表を聞いてもさっぱり分からなかったり、
正直言って自分はまだまだ未熟な研究者なので、自分に自信が無い。
アホだなぁとしみじみ思う。
「博士は賢い」というみんなの常識をぶち破る存在なのです。


今まで周りの人々に頼りきってきたので、モーリタニアに来て初めて1人で研究することになったので
ものすごく苦労すると思う。
フィールド調査などしたことがなく、ずっと実験室の中だけで研究してきたので勝手が分からない。



いきなりの本番がサハラ砂漠
目の前に広がる砂漠。そこでうごめくバッタ達。
何をしたらいいのか、あまりにも自由すぎる。

今までの文献を全て網羅してたら、この問題がやられてないからやろう!
とかできるんだろうが、残念。必要最小限の知識しか持ち合わせていない。



こんな状況でもやるしかないんすよ。

バッタに対する愛情と己のセンスに全てをたくして。

「なんでも知ってる博士」よりも、「なんでも知れる博士」を目指して。





初めてのMissionで、途方に暮れた結果、とりあえずトゲの植物とバッタの関係について観察してみた(ブログに書いた)。

構想時間:30分
観察時間:4時間
使用した道具:100円均一で買ったメジャー



この観察を解析してみたら、興奮するものだった。
知られざるバッタの素顔を物語る重要な手がかりを見つけた。


これはこのブログの方々に紹介するだけでなく、
世界のバッタ好きに是非とも伝えたい。


この観察を論文として発表できれば、研究者としてものすごく自信になる。


「研究は高額な機械やテクニックに頼るものでない。アイデア勝負だ」
という弘前大学伝統のスタイルを自分もマスターできたという自信にもなる。



研究にたずさわってない方に説明するけど、このショボイ観察で論文だそうとするのは異常だと思います。

つか、今まで実験室でやってきた仕事は、一日も休まずに、2年間データをとり続けてようやく1本の論文になったり、3ヶ月毎日朝晩10時に観察したり(全ての飲み会を断って)、バッタの卵を10万個数えてようやく論文になったりしてたから、
このナメた観察で一本の論文を出そうとすること事態、どれだけ無謀なことか身にしみて思う。

ただ、もし、本当にこれが論文になったら自分にとっていいだけでなく、
若い研究者達にすごく勇気を与えられると思う。
特に自分のように新しい環境に移って研究を始めた人たちに。



図を11個作り、統計解析を終えて、論文の構成を考えている。
研究成果を論文にするのはものすごく労力と時間がかかる。
ドラクエ3だったら、ゆうに5回はレベル99まで上げてラスボスに挑めるくらい時間がかかる。
他の仕事もあり道は険しいが、地道にやっていきたい。


これを激励してくれる嬉しいメールが届いた。

以前、自分がサバクトビバッタの脱皮に関する論文を出したときに、

The Orthopterists’ Society (バッタ研究者社会)(←訳すと怪しすぎるな)

で編集長をしていたWhitman教授が、続編は是非とも自分が編集する雑誌に投稿してくれ、と直々にメールをくれた。
偶然にも彼が書いたヤバいおもしろい昆虫の本(2万円)を買って読んでいたので、大御所の登場にびびったのだけど、
それがきっかけで文通するようになった。

お互いに違うバッタを研究しているので、


「君のバッタは卵を一度に何個産みますか?私のバッタは30個産みます」
「身体の割りに少ないですね。私のバッタは80-120個産みます。数が多くて数えるのが大変です。」



「君のバッタは卵をどれくらいのペースで産みますか?私のバッタは2週間おきに産みます」
「ずいぶんとゆっくりしたペースですね。私のバッタは4日置きに産みます。すぐに産むので数えるのが大変です。」



「君のバッタはどれくらいの大きさの卵を産みますか?私のバッタは平均5mmの卵を産みます」
「それは似ていますね。私のバッタは平均6-8.0mm産みます。卵の測定は最も興奮する作業の一つです」

と、お互いに興味津々で、連絡をとる度にすごい親密な関係になってきた。



モーリタニアに行くことを告げたら、Whitman教授もアリゾナ砂漠のバッタを研究しており、砂漠に精通していることから、喜んでくれて、何かあったらいくらでもアドバイスしてくれるとのこと。



Whitman教授に、このトゲ植物に関する結果をまとめて送り、アドバイスを求めた。

すぐに返事が返ってきて、「パーフェクト」という賛辞と、さらなる研究をするためのキレてるアドバイスをいっぱいくれた。実験スケジュールのセンスが良すぎで驚いた。


そして、励ましのメッセージをくれた。
(自分なりに訳してみた。勘違いしてるところあったら教えてください。今後の糧になります)

The most important thing is that you are living in nature -- in the exact environment of the insect, night and day. You can only come to know an insect, if you live in its habitat. You must experience the heat, the wind, the cold, the same as the insect. Today, too many young scientists do research from inside their office, in front of their computer. Many biologists have no understanding of nature. This causes them to make many mistakes. You will not have that problem. For example, only by seeing and touching Fagonia do you know that is prevents predation. A scientist reading that hoppers roost in that plant would not know that. Also, if you watch carefully, you will eventually discover something new and interesting to science. So, keep your eyes open. Ask "why" for everything you see. Keep a notebook with your interesting observations and questions.


最も重要なことは、君は今まさに自然の中で暮らしていることだ。
そう、バッタ、夜そして昼という真の環境の中で。
君が昆虫の生息地で暮らしているのなら 昆虫のことを知るしかない、
君は、その暑さ、その風、その寒さを体験しなくてはいけない。そう、バッタと同じように。
今日、大勢の若い研究者達がパソコンの前で、オフィスの中で研究をしている。
大勢の生物学者は自然というものを理解していない。
このことが彼らにどれだけ多くの過ちをもたらしていることか。
君はそのような心配はないだろう。
例えば、君はトゲの植物を見たり、触ったりしなければ、敵からの捕食を妨げていることを知れなかっただろう。
あの植物の中で幼虫が休んでいるということを本で読んで知っている科学者は、そんなことまでは知らないだろう。
また、君が注意深く見たなら、君は科学にとって興味深いことや新しい何かを発見するだろう。
そう。だから目を見開き続けるんだ。
そして、問うんだ。君が見た全てのものに。‘なぜ’、と。
君の面白い観察と疑問はノートに書き留めておくんだ。



Whitmann教授の贈る言葉、あんまりにしびれる。
もうプリントアウトして壁に貼るしかないでしょ。
もう公衆便所の壁という壁にこのメッセージを落書きしたい。


もうね。
レディ・ガガに振り付けつきで歌ってもらいたい。



さらに続きがある。


I hope that you are enjoying the beauty and solitude of the desert. The desert is one of my favorite places. Life is hard there, and every living thing in the desert has evolved some special traits in order to survive there. I know that the desert is a very different habitat than Japan. Hopefully some day I can take you to the Everglades marshes where I work -- it is a vast wet-land with interesting grasshoppers.

Good luck on your research. Please send me your next report.

君が砂漠の美しさ、孤独さを楽しんでいることを祈っています。
砂漠は私が好きな場所の一つです。
そこでの生活は厳しく、砂漠で暮らしている全てのものは、そこで生き延びるために特別な能力を進化させてきています。
砂漠は日本とはかなり違うことは私も知っています。
いつか、私が仕事をしているエバーグレード湿地に君を連れていけることを望んでいます。
そこは、広大な湿地で、面白いバッタ達がいます。

君の研究の幸運を祈ります。君の次なる報告を送ってください。




ありがたい。とてもありがたい。
まだ会ったこともない未熟な研究者に対して、この激励は感極まる。
忙しいはずなのに、こんなにも丁寧に励まししていただけるのは嬉しい。

そして、自然の大切さを伝えられるフィールドワーカーになる努力をしますって
Whitman教授に伝えるんだ。
他に温存している結果と一緒に。











ん?いや、どーした?オレ?








恐怖と絶望に満ちた泣く子も黙るブログ

にしようと思っていたのに。
感動系の話が続いてしまっているではないか!
アフリカに来ておかしくなってきたのか?
イカンよ。このままではイカンよ。