フランス旅行の影の目的は、フランスの農業研究所CIRADへの見学だ。
CIRADはヨーロッパで最も大きい農業系の研究所で研究者を5000人以上召し抱えるマンモス研究所なのだ。
数ある中の一つのユニットがバッタを研究しており、うちの研究所と長年提携して研究を行ってきたのだが、また新規のプロジェクトをしていくことになった。

フランス南部にあるモンペリエに向け、フランスの新幹線に乗る。

駅では初顔合わせのアシスタントが迎えに来てくれることになっており、不安だったのだが、わざわざ案内を作ってきてくれた。

ありがたい。
よほどのことが無い限り、間違って誘引されることはないだろう。


駅に迎えに来てくれたアシスタントのおばちゃんがおっちょこちょいだった。
駐車券をゴミ箱に捨ててしまい、係員を呼んで何とか発見し、
それを口にくわえて運転し、ゲートのところで券を差し込もうとしたら、その紙の券でくちびるを切ってしまい、一人で大笑いしていた。。陽気なフランスおばさん。




研究所はモンペリエの町から車で20分ほど離れた山中にあり、自然に囲まれた巨大組織だった。
モダンなビルで研究設備もがっつり整っていた。


他の研究室に訪れる時のドキドキ感は、ディズニーランド遠征をも凌駕する。


さすが長年バッタ研究をしてきただけあって、バッタ防除のための教科書やバッタグッズが半端無く沢山飾られていた。





CIRADバッタ研究チームのシンボル




部屋の前の名前にも。


砂と枯草で作ったバッタの絵が熱い。

(誰か作ってください。)



最も熱いバッタグッズがコレ。

木造の巨大バッタ


何だかわかります?





実は、バッタのマスクなんです。
アフリカのブルキナファソでミッシェル博士が発見してきたらしい。


著名なレコック博士もかぶる。


最高に欲しい。バッタグッズはどんなものでも欲しいのだが、コレは最高峰でしょ。
かなりのアンティークなのだが、古代ブルキナファソ人はどんな思いでコレを作ったのか。。
ちょっと心配になると同時にその制作意欲に脱帽する。

仮面ライダーはお面だけバッタの顔だけど、このマスクはホールでバッタだ。
どんな踊りがあったのか気になる。


着いたとたんにラボのメンバーを全員集め、シャンパン片手にウェルカムパーティをしてくれた。
なんて素敵な歓迎。昼から飲む酒は格段とうまい。

この日は休日だったのだが、みんな研究所に来ており、見学させてもらった。
次の日のプレゼンに備えて、夕方過ぎにホテルに戻り、街に繰り出す。



街の広場が一望できるオペラ前のカフェに腰掛け、人々を見ながらディナータイム。
人々の歩行スピードは非常にゆったりしており、どこか和やかな雰囲気が醸し出ている。
どこか旅行に行くのだろう。大荷物を抱えてはしゃいでる女子の団体を眺めていたのだが、ビールが届いた。
ビールの鮮やかな金色色に心奪われ、もうビールしか見えない。






(その時のイメージ画像)


先日、パリで食べたリゾットがあまりにも旨かったので、また注文した。

海鮮のジュースが濃厚で激しく旨かった。
自分のコメ料理ランキングでリゾットが2位に食い込んできた。
一位は牛丼が死守
三位はカレー
チャーハンが下がってしまった。




次の日は町を走ってるトリムと呼ばれる路面電車で研究所の側までいった。


まったくもって無事ではないけど、プレゼンを終え、質問の嵐を浴びる。
彼らの興味がどんぴしゃで自分がやってきたこととオーバラップしてたらしく、
すごい食いついてくれて嬉しかった。

止まない質問を背に受け、そのまま昼食に。
CIRADの社員食堂はもうレストランそのものだった。
デザートもよりどりみろり。

ビールまで置いてあった。


楽しんで研究できる環境が整備されていた。



研究チームが今年から任期付きの若手研究者のベンジャミンを雇って、サバクトビバッタを飼育し始めたのだが、どうもうまく飼えないらしい。

助言を求めてきた。
彼らの飼育室に入ってあまりの湿度の高さにギョッとした。
経験上、高湿度はバッタにとって最悪。
高湿度下では、病気が発生しやすくなり、死亡率が高くなってしまう。
なぜこんな高湿度でキープしているのか聞いたら、
1936年の論文で湿度70%が最も生存率が高かったからそうしているそうだ。

危ない。これは危ない。
論文になっているからと言って、過去の知見が正しいとは限らない。
他人の知識を信じ込むと、あらぬ方向に行くことがある。
実験をする時は、まずは自分で体験し、どんなものなのかを実感しなければならないと考える。
たとえ、どんな当たり前のことでも、自分が見たら何か別の発見があるかもしれないからだ。


低湿度だとエサの草がすぐに枯れてしまうのも、手間がかかるから高湿度をキープしていたらしい。

とりあえず、湿度を下げるように勧めた。


そして、採卵できずに困っていた。
サバクトビバッタは湿った地面に腹部を差し込んで、平均85ほどの卵を卵塊で産む。



(飼育密度やメス親の体サイズに応じても一卵塊当たりの卵数は変化する。詳しく知りたい方は、こちらを参照されたし)
Maeno, K. & Tanaka, S. (2008a) Maternal effects on progeny size, number and body color in the desert locust, Schistocerca gregaria: Density- and reproductive cycle-dependent variation. Journal of Insect Physiology 54, 1072-1080.

Maeno, K. & Tanaka, S. (2008b) Phase-specific developmental and reproductive strategies in locusts. Bulletin of Entomological Research 98, 527-534.



砂は湿らせすぎてもダメだし、乾きすぎてもダメ。
最適な湿り気具合を教えようにも、自分にはできなかった。
なぜなら、最適な湿り気具合は自分の指先だけが知っているからだ。

砂粒の大きさでも湿り気具合が変わってくるので、微妙に加える水分を変えなければならない。
使っている砂に合った水分量を求めなければならない。

その旨、ベンジャミンに伝えると、彼はちゃんと水分を計測した砂を準備してきた。


自分がその一山一山を手で触り、

「This is the best sand」

と二度と使わないであろう英語で最もよさそうな砂山を教えた。
ベンジャミンは黄金比を獲得できて、喜んでいた。


彼はバッタ研究は初心者なのだが、すごく積極的に議論に加わり、ナイスガイだった。
若者同士、これからタッグを組んでやっていこうぜと誓った。


ディナーは今回のCIRAD見学をオーガナイズしてくれたシリル ピュ博士 に案内してもらった。

モンペリエの街並みは風情があって非常にかっこよかったのだが、
何と言っても路地がたまらない。

ヨーロッパ特有の造りが凝縮しているような気がした。




ディナーはシリル家と若手女子研究者のマリピエも来てくれた。
すごいオシャレなオープンカフェで、フランスの景色を眺めてのディナーに心が弾む。
道行くフランス女子がすごいキレイで思わず見とれてしまった。
(いや、日本女子には負けるけどさ。)


そしたら、マリリン・モンローみたいなおばさんが目の前に座り、ワインをデキャンタでガブ飲みし始めた。

あぁぁぁぁ イメージが・・・




料理だよ。料理を楽しむべきだよ。
ここでは、コース料理でオードブルからデザートまで色んなコンビネーションで頼める。

1. フォアグラの何とか。

すっぱいし、フォアグラが見当たらない。外してしまった。



2.ロブスターの何とか。

あ、あのー アメリカザリガニなんですけど。。。
 太いエビを予想しており、外してしまった。味は良かったのだけど、口いっぱいにエビをほおばりたかった。。。

日が落ちるにつれ、あたりがオレンジ色のライトで照らされる。


シリルはこれまでにマングローブに住むカニの分布や、サーモンの産卵場所選択などの問題についてモデルやシュミレーションを駆使して研究してきたそうだ。

自分の手持ちのデータでバッタの分布を調べたものがあるのだが、どうやって解析しようかちょうど勉強していたところだったので、もしかしてと思って聞いたら、サーモンの時の解析方法と丸かぶりだった。

「自分が開発した解析方法をバッタでも使えるとは思わなかったよ」

と、この話の時ばかりは子供のことを忘れて上機嫌になっていた。



まったく知らない分野の研究者と話すのは会話に困ると思っていたのだけど、
お互いに手の届かないモノを持っていたりするので、お互いに手助けし合うことで、見えないものが見えてくることができるのは、共同研究の醍醐味と知った。