野に解き放たれた奇才・裏山の奇人


その男、
時に地蔵の如く身動きを止めたたずみ、
時に鬼神の如く自然に立ち向かい、獲物を狙う。





昨年、ニコニコ学会βで登壇した盟友・小松貴博士が著書を出版された。

右から丸山宗利氏、小松貴氏、前野ウルド浩太郎、堀川大樹氏 (撮影: 石澤ヨージ氏)



バッタ本と同じ東海大学出版部が繰り出すフィールドの生物学シリーズ第14
「裏山の奇人 野にたゆたう博物学

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)



こちらのシリーズでは若手研究者が執筆を手がけている。小松博士も例にもれず32歳くらい。

http://sangetuki.blog.fc2.com/




しかしながら、彼の昆虫研究は2歳からはじまっているため、キャリア30年の超ベテランだ。幼少期から自らを自然の中に放り出し、自然との付き合い方をセルフで英才教育してきた。その結果、人間の成せる領域を越え、常人が見えないものまで見える奇人と化した。


本書では、幼少期から現在までにいたる小松博士が体験してきた虫や動物との出来事をきわどく綴っている。たまにアウトだったりする。スリーアウトチェンジにならないよう絶妙のバランスでドラマチックに物語は進んで行く。


自伝の流れとしては時系列なので、今までもなくはないものかもしれないが、これを書いたのが奇人だったため、その内容は絶対無二のものとなっている。とくに初めて聞くような様々な動物や昆虫が登場してくるが、そのほとんどが小松博士が自らからんでいった話であり、小松博士の動物に対する執念と怨念がにじみ出ている。


「奇人」という単語が世に生まれたのは小松博士のためだったと言っても過言ではない。そのくらい、研究に対する思いは並々ならぬものがある。そして、それが伝わる文章力。私は、文字を読めることをこれほど感謝したことはない。




読者の楽しみを奪うことはしたくないため、内容について触れることは避けるが、自らの肉体の一部をアリに提供するシーンなど、リアルアンパンマンを彷彿させ、小松博士の虫に対する愛を感じられずにはいられない。


研究の楽しみ方だけではなく、人生の生きがい、楽しみ方も学ぶことができる。本書を読みすすめるうちに苦しみさえも楽しんでいる小松博士を羨ましく思った。


途中、登場してくるキーパーソンとなる丸山宗利博士との研究記も手に汗握り、本を湿らせてしまう展開となっている。


本書を飾る美しい写真は、昆虫写真家の小松貴博士が撮影したものだ。



「小松貴」という生物が秘める底知れぬ才能と可能性に脅えてしまった。





この夏、日本が自信を持っておおくりする裏山の奇人
手にとった者だけが、本当の驚愕の意味を知ることになるだろう。

裏山の奇人: 野にたゆたう博物学 (フィールドの生物学)